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仙台地方裁判所 昭和32年(行)10号 判決

原告 高橋文五郎 外二名

被告 宮城県議会

主文

原告らの訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「一、被告が第七十六回定例会の開会中昭和三十二年七月三日なしたる別紙その一記載の常任委員の選任決議の無効なることを確認する。二、被告が第七十六回定例会の開会中昭和三十二年七月三日なした別紙その二記載の常任委員長及び常任副委員長の選任決議の無効なることを確認する。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めると申し立て、その請求の原因として次のとおり陳述した。

一、被告宮城県議会は昭和三十年五月二十四日一般選挙後はじめて召集され、県議会として設置され、議会代表議長鮎貝盛益は昭和三十一年十月一日議会において選挙せられてこれに就任し、今日までその職に在るものである。

二、原告らは昭和三十年四月当選した宮城県議会議員であるところ、昭和三十一年七月三十日被告県議会の選任により原告高橋文五郎は常任水産商工委員及びその委員長に、原告庄司隆は常任民生労働委員及びその委員長に、原告屋代文太郎は常任土木委員にそれぞれ就任して今日に至つたものである。常任委員の任期は宮城県議会委員会条例第三条によりその選任された日から満一ケ年であるから昭和三十一年七月三十日に選任された常任委員の任期は昭和三十二年七月二十九日までであるが、その任期満了後と雖も後任者が選任されるときまでは在任するのである。常任委員長及び常任副委員長の任期についてはその定めがないが前記条例第七条第二項により常任委員中より被告議会において選任することになつており、その任期も当然に右常任委員の任期と同一であると解すべきである。

三、宮城県知事大沼康は昭和三十二年六月二十四日第七十六回宮城県議会定例会を召集した。その会期は同日から翌七月一日までの八日間であつた。右定例会において大沼知事の与党派と称する議員ら(社会党議員団、公正会、県政クラブ各所属議員ら)は議会運営の主導権を奪わんがため、別紙その三記載の在任中の常任委員及びその正副委員長の資格を剥奪のうえ新に常任委員及びその正副委員長を選任しようと企図し、昭和三十二年六月二十九日宮城県議会委員会条例の一部改正条例案をば議会運営委員会における本会議上程の旨の議決を経ずに、しかも議長において原告らとその他の野党派と称する議員らに右改正条例案を当日の本会議に上程する旨の通知をなさなかつたため野党派議員らが右一部改正条例案が当日の本会議に上程されることを知らずに帰つたのに拘らず与党派議員のみで本会議を開会のうえ右一部改正条例案を議決し、次いで議長鮎貝盛益よりこれを大沼知事に送付し、同知事はこれを宮城県条例第二十一号(以下において一部改正条例という場合はこれを指す)として昭和三十二年六月三十日(日曜日)宮城県公報によりこれを公布した。しかしこの条例の制定手続には右に述べたような瑕疵があるのみならず、その附則には「1.この条例は公布の日から施行する。2.この条例の施行後最初に行うべき常任委員の選任はこの条例の施行後直ちに行うものとする。3.この条例施行の際現に在任する常任委員の任期は宮城県議会委員会条例第三条第一項の規定にかかわらず、前項の規定により新たに常任委員が選任されたときまでとする。」と定められており、この規定によればこの議会の会期中に新たに常任委員及びその正副委員長を選任することにより在任中の別紙その三記載の原告らを含む既存の常任委員及びその正副委員長の保有する地方公務員特別職たる資格を剥奪できることになるから、この規定はその内容において地方自治法及び宮城県議会委員会条例に違反する無効なものであつてかかる条例の制定公布は許さるべき筋合でない。しかるにその送付を受けた知事は再議にも付せず敢えて公布したのである。しかるに多数を擁する与党派と称する議員らは会期最終日である昭和三十二年七月一日右違法無効の条例を楯にとり常任委員及びその正副委員長の選任を議会に要求した。野党派と称する原告らを含むその他の議員らは別紙その三記載の常任委員及びその正副委員長が現に在任中でありこれがそのまま在任しても議会運営上何ら支障なく来るべき昭和三十二年九月の定例会もしくは臨時会において選任しても可なりと主張し、且つその根本において前記の一部改正条例が無効であるからその条例に基き選任してもその選任も亦無効であると主張し極力抵抗したので、その日は協議がまとまらなかつた。それで会期を一日延長し翌二日も継続審議したのであるがやはり協議がまとまらず、そのためその日も亦会期を延長し翌三日に持越され継続審議したのである。その間の議事進行ぶりは民主的でもなく正常でもないのであつて一言にしてこれを言えば多数与党派の横暴以外の何ものでもなかつた。そしてついに与党派議員において候補者を選考し、与党派議員のみ出席した七月三日の本会議において午後九時ころ別紙その一記載の各常任委員を選任し、更にその常任委員中より別紙その二記載のとおり、その常任委員長及副委員長をそれぞれ選任したのである。野党派議員らが右選任決議のなされた本会議に欠席したのは与党派議員らが多数をたのみ無効なる前記条例を楯に常任委員等の選任を強行しようとしたからである。しかして前記選任決議の結果各常任委員会の正副委員長がすべて大沼知事の与党派である社会党議員団、公正会、県政クラブ所属議員中より選任されたことはいうまでもない。

四、右選任により在任中の昭和三十一年七月三十日選任された別紙その三記載の常任委員及びその正副委員長の資格は剥奪され、原告高橋は常任水産商工委員及びその委員長たる地位を、原告庄司は常任民生労働委員及びその委員長たる地位を、原告屋代は常任土木委員たる地位をそれぞれ喪失することになるが、かかる選任決議は前記の無効なる一部改正条例に基くものであるとともに既得の地方公務員特別職たる地位を奪うものであるから無効である。よつてその無効確認を求めるため本訴請求に及んだものである。なお被告の本案前の抗弁は理由がない。

被告訴訟代理人は本案前の答弁として主文第一、二項同旨の判決を、本案に対する答弁として「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、次のように陳述した。

一、原告ら主張の請求原因事実中、一、二の事実及び三の事実中宮城県知事が原告ら主張の日に第七十六回宮城県議会定例会を招集したこと、その会期が原告ら主張のとおりであつたこと、昭和三十二年六月二十九日の本会議に原告ら主張の如く「宮城県議会委員会条例の一部を改正する条例案」が上程議決され、鮎貝議長から大沼県知事にこれが送付されたこと、右会議に原告ら主張の所謂野党派議員の大部分が欠席したこと、知事が原告ら主張の日に宮城県条例第二十一号として宮城県公報により右一部改正条例を公布したこと、右一部改正条例の附則は原告ら主張のとおりに規定されていること、大沼知事が右一部改正条例を再議に付さないで公布したこと、会期最終日である昭和三十二年七月一日原告ら主張の与党派議員らが右改正条例に基いて常任委員及びその正副委員長の選任を要求したこと、これに対して原告らが昭和三十二年九月の定例議会において常任委員及びその正副委員長を選任しても可なりと主張して反対したこと、そのため協議がまとまらないで会期を延長したこと、昭和三十二年七月三日午後九時ころ原告ら主張の各常任委員及びその正副委員長が選任されたこと、正副委員長選任の本会議に原告ら主張の野党派議員の大部分が欠席したこと、各常任委員会の正副委員長が原告ら主張の各会派所属議員中から選任されたことはいずれもこれを認めるが、その余の事実はすべて否認する。

二、県議会が常任委員会条例を改正してこれに基いて常任委員及びその正副委員長を選任することはすべて議会の自律権に基く行為であるから本来的に司法審査に服さない事項であり、かかるものとして本件常任委員選任決議及び正副委員長選任決議の各無効なることの確認を求める本訴請求は不適法として却下さるべきである。

三、仮に本訴請求が適法だとしても、本件選任決議には何ら違法の点はない。すなわち、

(一)  宮城県議会議員は昭和三十年四月改選され、議員定数五十五名中県政同志会(自民党)三十名、公正会十六名、社会党九名であつたところ、昭和三十一年七月三十日議会は宮城県議会委員会条例に基いて各会派所属の議員数に比例して原告ら主張の如く別紙その三記載のとおり各常任委員及びその正副委員長を選任した。然るに県政同志会は同年八月宮城県知事選挙及び常任委員並にその正副委員長の選任等を繞つて意見対立して抗争し遂に同友会十一名、自民クラブ十名、同志会九名の所謂自民三派に分裂してその所属会派を異にすることとなつた。

(二)  然し本来常任委員会は議会の行うべき地方公共団体の事務の調査、議案陳情の審査等を能率的に行うために設ける議会内部の予備的事前審査機関であつて議会から独立して存在する機関ではないのであるから、議会の縮図的状態に在ることが最も望ましいのである。かくてこそ政治的活動の分野においても議会の各会派別構成を直接常任委員会に反映することができ名実ともに議会の縮図的状態で合理的な運営を期待し得る理想的なものとなるのであり、国会法第四十六条も「常任委員及び特別委員は各会派の所属議員の比率によりこれを各会派に割当て選任する。各会派の所属議員数に変動があつたため、委員の各会派割当数を変更する必要があるときは議長は議院運営委員会の議を経て委員を変更することができる。」と規定しておるのであつて、宮城県議会においてもこの精神に則つて常任委員及びその正副委員長は各会派所属議員数に比例して選任するを慣例としているのである。従つて県政同志会が自民三派に分裂した以上仮令任期を中断することになつても常任委員及びその正副委員長を改選して正常化すべきであつたし又正常化すべきであるという意見が漸次議員の多数を占めつつあつたのであるが、自民三派の主流はこれを頑強に阻止してきたのである。

(三)  ところが昭和三十二年六月二十日同友会から一名、同志会から二名、公正会から三名の議員が脱退して県政クラブを結成し各会派所属の議員数に大なる変動があつたのみならず、宮城県庁に総合開発室の新設等もあつたので、昭和三十二年六月二十四日招集された宮城県議会において同月二十九日県政クラブ、公正会、社会党から会議休憩中宮城県議会運営委員会規程に基いて、同委員会に対し同日現在の各会派所属議員数に比例して同委員の割当を変更するよう申入れたところ、自民三派はこれに反対し議論沸騰して尽きなかつた。偶々鮎貝議長から議員運営委員会に対し木村幸四郎外二十七名の議員から提出に係る「発議第一号宮城県議会委員会条例の一部を改正する条例案」の本会議上程につき諮られるや、同委員会の自民三派はその委員十一名中六名を占めているのを奇貨として右条例改正案の取扱について殆んど協議しないで当日の一切の議事を七月一日にすることにして直ちに同委員会を散会することにして退席した。然し鮎貝議長は予ねて県政クラブ、公正会、社会党所属議員から連名で地方自治法第百十四条に基く開議の請求があつたので、鮎貝議長は事務局をして本会議を再開する旨各会派所属議員に通知してこれを了知せしめ、次いで本会議を再開したところ、自民三派は千葉副議長を除いてその他は全部欠席して自ら審議権を放棄する挙に出た。しかし本会議は定足数の出席によつて成立し、これに上程された右一部改正条例案は所定の手続で多数を以て議決されたので、鮎貝議長はこれを大沼知事に送付し同知事は宮城県条例第二十一号として宮城県公報によりこれを公布し、即日施行の運びとなつたものであつて、右改正条例の制定手続には何らの瑕疵がないのである。

(四)  前述の如く常任委員会は議会の常設的分科会たる性格を有して居るのであつて議会から独立した機関ではないのであり、唯議会活動を能率化するため議会の行うべき地方公共団体の事務の調査、議案、陳情の審査等を予備的に事前審査する内部機関であるから、常任委員会に関する事項は議会の自律権の中に当然に包含されているのであり、地方自治法第百九条は議会が必要あると認めたときは同条所定の人口、規模別限定数の範囲内においてその数、任期、所管事項、構成、定数等をすべて条例で定めることができることは勿論のこと、この条例の発案権は議会に専属するものと規定しているのである。又昭和三十一年法律第百四十七号により地方自治法の一部を改正して地方行政の合理化を企図し、常任委員会の数を制限し、過多の常任委員会を整備縮少せしめる方途に出た際、各県議会において常任委員の任期を中断せざるを得ない事態の起るべきことが予想されたのであるが、そこで議会が条例を改正しこれに基いて常任委員の任期を中断して新たにこれを選任しても何ら違法ではないと解されていたのであり、現に宮城県議会においても宮城県議会委員会条例を改正して十二の常任委員会を六の常任委員会に整理し、常任委員及びその正副委員長を選任したのである。ところで被告議会が本件で問題になつている宮城県議会常任委員会条例の一部改正をなしたのは前述の如き県政同志会の分裂、県政クラブの結成等によつて議会の各会派別構成が常任委員会に直接反映しないようになり、そのため常任委員会がその機能を十分発揮することが困難なような状態となつたのを正常化する必要があつたことや、前記総合開発室の新設により常任委員会の所管事項を一部変更する必要があつたこと等によるものであつて、これは寧ろ当然の措置であり、何ら違法の点はない。

(五)  しかして右改正条例附則第二項は「この条例の施行後最初に行うべき常任委員の選任はこの条例の施行後直ちに行うものとする」と定めているので、昭和三十二年七月二日の本会議に常任委員選任の件が上程されたところ、自民三派は強烈に反対した。しかし木村幸四郎議員の動議により多数をもつて議長指名による十一名の選考委員をあげて各常任委員を内選し議長に報告すること、議長はその報告を議会に諮つて決定することと議決したので、鮎貝議長は浅野喜代治外十名の選考委員を指名し、同月三日の本会議において鮎貝議長は右選考委員の報告どおり議会に諮つて賛成二十八名、反対二十一名の多数を以て別紙その一記載のとおり常任委員を選任し、次いで自民三派の所属議員の大部分が故意に欠席したけれども、同日の本会議で賛成二十八名、反対二名の多数をもつて別紙その二記載のとおり常任委員会の正副委員長を選任したものである。従つて原告らの主張するような多数横暴等の事実は全然ないし右選任決議には何らの違法の点はないのである。

しかも常任委員及びその正副委員長は議会の自律権の発動として条例に基いて議会の行うべき県の事務の調査、議案陳情の審査等を能率的に行うために事前審査をする必要から地方公務員法第三条の特別職たる議員の事務分担として選任するものであつて議員の外に兼任する別個の特別職ではないのみならず、議員としての外に特に権利と目すべきものは特段ないのである。もし強いて権利があるとすれば担当する常任委員会に出席して発言し、表決する権利、常任委員会の招集を請求する権利、少数意見を報告する権利等あるに過ぎない。却つて常任委員に就任し、その職務に服しなければならない義務の方がより大なのである。大体議会の議決によつて常任委員が選任され、事務分担が変つたからとて原告らの主張するように既得の常任委員の資格を奪うことにはならないのである。何故ならば常任委員の割当が変つたからとて議員としての資格を失う訳ではないし、必ずいずれかの常任委員に就任しその職務に服しなければならないのであるから、常任委員の資格を奪うということは全然あり得ないのであつて単に事務分担の変更あるに過ぎない。又その正副委員長は常任委員の改選が行われれば結果的に常任委員中から選任され、その常任委員たるが故に保有する従前の正副委員長の地位も改選の結果自然消滅すること当然であつて、それによつて原告ら個人の利益又は権利を侵害することはあり得ないのである。

以上のとおりであつて本件常任委員選任決議並に常任委員長及び常任副委員長の選任決議には何ら違法の点がないから原告の本訴請求は失当である。

(立証省略)

理由

原告らが昭和三十年四月の宮城県議会議員の一般選挙に当選した県会議員であり、被告議会は昭和三十一年七月三十日別紙その三記載のとおり常任委員会委員及びその委員長と副委員長を選任し、その際原告高橋文五郎は水産商工委員会の常任委員及びその委員長に、原告庄司隆は民生労働委員会の常任委員及びその委員長に、原告屋代文太郎は土木委員会の常任委員に就任したこと、宮城県議会委員会条例第三条は常任委員の任期を一年と定めているので原告らの前記常任委員ないし委員長としての任期は昭和三十二年七月二十九日までと予定されていたこと、しかるに被告議会は第七十六回定例会の会期中である昭和三十二年六月二十九日宮城県議会委員会条例の一部改正条例案を本会議に上程議決し(その手続の適否は暫らく措く)、地方自治法第十六条所定の手続を経て右一部改正条例が翌六月三十日公布されたこと、しかして右条例の附則には「1.この条例は公布の日から施行する。2.この条例施行後最初に行うべき常任委員の選任はこの条例の施行後直ちに行うものとする。3.この条例施行の際現に在任する常任委員の任期は宮城県議会委員会条例第三条第一項の規定にかかわらず前項の規定により新たに常任委員が選任されたときまでとする。」と規定されており、この附則に基き被告議会は延長された会期中である同年七月三日の本会議において別紙その一記載のとおりに常任委員を、別紙その二記載のとおりに常任委員会委員長及び副委員長をそれぞれ選任する旨決議し、それによつて原告高橋は土木委員会の常任委員に、原告庄司は総務警察委員会の常任委員に、原告屋代は文教衛生委員会の常任委員にそれぞれ選任されたが、かくて新たな常任委員が選任された結果前記一部改正条例附則第三項により昭和三十一年七月三十日選任されてなお在任中であつた従前の常任委員たる地位は(正副委員長であつた者については当然にその地位も)原告らを含めすべての議員がこれを失うこととされたことはいずれも当事者間に争いのないところである。

被告は被告議会における常任委員会の委員及びその正副委員長の選任が被告議会の自律権に基く行為であることを理由にそれは司法審査に服さない事項であると主張するのであるが、この点について判断する。

地方自治法によれば普通地方公共団体の議会は条例で当該地方公共団体の人口に応じて法定されている一定数以内の常任委員会を置くことができ(同法第百九条第一項)、これを置く場合はその議会のすべての議員が在任中必ず一個の常任委員に就任することになつており、又常任委員は会期の始めに議会で選任し議員としての任期中在任するが、この任期の点については条例で別に定めることができることとされており(同法同条第二項)、常任委員会に関し地方自治法で定めること以外で必要な事項は条例で定めることになつている(同法第百十一条)。これを受け、被告議会が制定した宮城県議会委員会条例は被告議会に総務警察委員会、民生労働委員会、農林委員会、土木委員会、文教衛生委員会、水産商工委員会の六個の常任委員会を置くこととし(同条例第二条第一項)、常任委員の任期は一年とするが後任者が選任されるまでは在任するものとし(同条例第三条第一項)、常任委員会には委員長及び副委員長各一人を置き、右委員長及び副委員長は常任委員のうちから議会において選任することとしている(同条例第七条第一、第二項)。しかして地方自治法によれば常任委員会の任務はその部門に属する普通地方公共団体の事務に関する調査を行い議案、陳情等を審査するに在るものとされており(同法第百九条第三項)、しかして前記条例によれば被告議会の常任委員会の委員長は委員会を招集し議事を整理し、秩序を保持し委員会を代表する権限を有し(同条例第九条第一項)、副委員長は委員長に事故あるときその職務を行うものとされている(同条例第八条第一項)。以上に示したような地方自治法及び被告議会委員会条例に規定するところに拠つて考察すれば、まず普通地方公共団体の議会に常任委員会を置く場合その制度の目的は地方自治行政が広汎多岐の部門に亘りしかも各部門が益々専門化技術化する傾向あるに鑑み、議会内部の問題として当該地方公共団体の事務の系統的区分に応じてすべての議員を適宜区分し、同一区分に属せしめられた議員が議会のなすべき当該部門に関する議案、陳情の審査や当該普通地方公共団体の行政事務の調査等を予備審査的に且つ専門的に分掌することにより議会の有する広汎にして重要な権限の行使を万遺漏なく且つ能率的たらしめるに在るものと解されるのであり、被告議会委員会条例が常任委員会に前記のような権限を有する委員長及び副委員長の制度を定めた目的は前記のような使命を持つた常任委員会の運営を秩序を保持しながら円滑に行うためであり、窮極するところ前記の常任委員会設置の目的と軌を一にするものと解されるのである。そこで常任委員会制度が地方自治行政の広汎化専門化に即応するため設けられるものである点に着眼すれば、議会は一方において一旦選任された常任委員を濫りに変更すべきではないとともに他方当該普通地方公共団体の自治行政事務の応汎化、専門化の傾向の程度の差異やその消長をできるだけ常任委員会の構成に反映させるようにすべきであること明らかであり、又常任委員会なるものが最終的には議会の決すべき議案や陳情の審査、地方自治行政事務の調査等を議会内部に在つて予備審査的に行うものである点に着眼すれば、当該議会が複数の政党所属議員を含んで構成されている場合はできるだけすべての常任委員会をば議会における議員の政党各派別構成を反映するように構成するのが望ましいこと当然であり(国会法第四十六条参照)、更に又常任委員会の制度及びその正副委員長の制度がそもそも議会の能率的にして万遺漏なき運営を窮局目的としていることに着眼すれば、すべての議員がいずれかの常任委員会の委員に選任され、はたまたそのうちの一人が委員長に、他の一人が副委員長に選任されるのも専ら議会そのものの利益のためであつて議員としては常任委員ないし正副委員長の地位に就くことによつて、政治的観点からの論議は格別、法律的には別段自己の利益のための地位を取得したものと見るのは相当でないことが理解できる。常任委員については勿論任期の定めがあり、被告議会におけるそれが一年と定められていることは已に述べたとおりであり、正副委員長の任期についても当然にこれに従うものと考えられるのであるが、議会として特段の事由ない限りこの任期の定めを尊重すべきこと当然としても、当該地方公共団体の人口の増加、自治行政事務の部門別増減、議会における政党各派別構成の変動等常任委員会の構成の変更を相当とするような事情が発生した場合は仮令在任中の常任委員の任期満了前であつても、議会はそれに即応した措置を執り得るものと解することが前記の如き常任委員会制度の根本性格に照らし肯認さるべきであり、このことに鑑みれば条例による常任委員の任期の定めは議会が無分別な常任委員の改選を繰り返すことにより常任委員会制度の目的を没却してしまうことがないようにするいわば議会自身の自制についての保障たる意義しかなく、これを裏からいえばそれは議員がある特定の常任委員会の委員たることの地位を保障するために在るのではないと解するのが相当である。従つて普通地方公共団体の議会の常任委員会の委員及びその正副委員長たる地位は司法権が介入して保護を与えるに値する地位ではなく、議会がいかような手続でいかように常任委員会の委員なりその正副委員長なりを選任しても、議員からその選任の効力を争つて裁判所にその司法審査を求め得べき限りではなく、その意味においては被告の主張するようにそれは議会の自律権の範囲内の問題だといつてもよいのである(駄足ながら念のため附言すれば、以上の説明は普通地方公共団体の議会における常任委員に関する条例案の議決や常任委員の選任決議等がいかなる場合でも司法審査に服さないというものでないことはいうまでもない。もしそれらが議会の権限を超え又法令若しくは会議規則に違反すると認められる場合には、地方自治法第百七十六条第四項以下に規定する手続を経て終局的には普通地方公共団体の長が原告となつて内閣総理大臣又は知事に対する右議決の審査請求に対するその裁定を争うという形で裁判所の審査を受けることができるのであるが、この訴訟制度は専ら法令の適正な適用を確保するために法律が特に規定しているものであることはいうまでもない。)。

以上の次第であつて原告らの主張する被告議会の常任委員選任決議並びに常任委員長及び常任副委員長選任決議は裁判所の審査に服さないものであるから原告らの本件訴は不適法としてこれを却下し、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 中川毅 宮崎富哉 佐藤邦夫)

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